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カヴァリエという名の筆記具指先で踊らせるまだ少年の君
触れられないあの頬にパラレルワールドの私がたやすく口づけをする
閉じようとしている扉の内側と外側どっちにいたら助かる?
鍵をかけることにしました思い入れは私のものであなたのじゃない
天啓に眉ひそめれば月近く蔦の絡まる金網の上
トンネルのオレンジの色同じ色染まってふたり標本になる
敗因は好きになったことルームランナーはルームから出てはいけない
水はけの良いさよならをした後でそっと如雨露に水を溜めてる
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「かばん」2011年12月号掲載作
如才ない肩すかしに怒る我を眺める君はいつも先勝【せんしょう】
人さらいうようよしてるのに私には目もくれやしない友引の夕
わざとメールせずに電源を切って寝る結局夢中で泣いて先負【さきまけ】
くだらない発作を抑えるためだけに靴と鞄をおろす仏滅
来ないままふと目をやると大安の赤字が大きく揺れるカレンダー
火の元もわからぬままに煙だけ充満している赤口の夜
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「かばん」2011年11月号掲載作
全天の渡り廊下ですれ違うあなたが起こす風を吸い込む
落としたら拾ってくれたペンはその日からノートに頻出する色
山月記の音読で知る「いっぴき」の「いっ」の音の方高く言うこと
テスト前教科書本文読むときはあなたの声で再生される
奥さんにお願いがありますあの人を幸せ太りにだけはさせないで
無意味だと知りつつ書く嘘久々の手紙に「恋人ができました」
返信のはがきに以前と変わらない文字で「子供が産まれました」
あこがれのN先生が吸っていた煙草灯して二十歳【はたち】を祝う
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「かばん」2011年10月号掲載作
二十二時改札前ではち合わせ藪と知りつつ踏み込んでみる
真っ白なスケジュール帳約束は約束でないこういう場合
シュレッダーに向かうタイミング見計らいメモを渡しに来る周到さ
携帯の四角い光が映っているあなたの眼の中ことばを探す
伸びきった腕に頭をまたのせてあと一時間の安全むさぼる
わたくしが終わりと言ったら終わるから生きるの同様静かにあがく
「搾取などしていません」という顔でフラペチーノを飲む十八時
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かばん・9月歌会提出作より
整えた爪をまったく感知しない君のセンサーに足は安らぐ
湿気と熱取り込む装置と化した窓寝返りを打つ君は扇風機
泳ぎ方わからなくても溺れること知らなきゃきっと溺れはしない
見てくれのためにやむなく作る傷カミソリ負けの肌をなだめる
出会う前の知らない時間も分かち合う駄菓子を買って帰る八月
未来形きらめく暑さ来年も同じ麦わら帽かぶせて笑う
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かばん・8月歌会提出作改訂